11年間で通算安打数はたったの6本
金本知憲新監督を迎えた新生・阪神の開幕戦、スタメンマスクを被ったのはプロ12年目の岡崎太一だった。
前日には「ガチガチに緊張していこうかなと思っています」と意気込みを語っていた岡崎。昨年までの通算一軍試合出場数はわずか41試合で、戦力外候補やトレード候補に挙げられたこともある苦労人だ。彼はいかにして、開幕一軍という晴れ舞台に上がることができたのであろうか…。
2004年の自由獲得枠で入団した岡崎のウリは、強肩を含めた守備力にある。一方で打撃は伸び悩み、昨年までの11年間で通算安打は6本。わずか34打席しか与えられていない。
また、入団当時から阪神の正捕手は矢野燿大、城島健司と引き継がれ、それ以降も野口寿浩や狩野恵輔、藤井彰人、小宮山慎二、鶴岡一成ら頭数が揃っており、岡崎は“第二捕手”としても一軍に定着することができなかった。
昨季の阪神は、藤井彰人、鶴岡一成、梅野隆太郎が主にマスクを被った。その中で藤井が現役を退き、鶴岡は今年で39歳。梅野はパンチ力が魅力だが、守備面の経験がまだまだ浅い。
そんなところで、チームは“超変革”をスローガンとする金本知憲が新監督に就任。守備で評価されていた戦力外寸前の男・岡崎に追い風が吹いてきたのだ。
新監督のもとで「すべてを変えたい!」
「11年間やってきて実績はない。すべてを変えたい」と考えた岡崎は、昨年の秋季キャンプで金本監督から直接打撃指導を受けた。成果はすぐにあらわれ、春季キャンプの紅白戦で6打数5安打、オープン戦で1試合に2本の二塁打を放つなど結果を残す。
金本監督は「ディフェンス面で、矢野コーチが一番評価している。打撃さえ良くなったらレギュラーに一番近い」と岡崎の開幕一軍を明言した。
岡崎に熱い視線を送った矢野コーチも、30歳を超えてから正捕手の座をつかんだ“忍耐の人”である。キャンプ中、今年で33歳になる岡崎が、若手に混じって一番大きな声を出す姿を見て、不退転の決意を感じ取ったことは想像するに難しくない。
岡崎自身、今年に賭ける気迫も今までとは違う。オフに行われたイベントでも、「今年はラストチャンス。“レギュラーを取る覚悟だ”といろいろなところで公言して、自分を追いこんだ」と力強く語っている。
4月20日時点でのスタメンマスク数は岡崎が8試合、梅野は13試合、清水誉が1試合となっている。岡崎の1シーズンでの一軍最多試合数は19試合。このままいけば、最多試合数の更新は確実だ。
金本阪神のここまでを見ると、ルーキーの高山俊と21歳の横田慎太郎で組んだ1・2番や、プロ2年目の江越大賀の3番抜擢など、新しい顔ぶれをスタメンで積極的に起用。今までと違うチームを作り上げようとしている。その扇の要となれるのは、“すべてを変えよう”とした戦力外寸前だった男・岡崎なのかもしれない。
文=松本祐貴(まつもと・ゆうき)