白球つれづれ~第16回・鹿取義隆GM~
使い減りがなく、使い勝手がいい。どこかの家電製品のCMではない。巨人の新GMに就任した鹿取義隆に抱く私のイメージだ。
今月13日、名門球団に激震が走った。交流戦期間中に連なった敗戦はついに球団ワーストの13連敗。打てない、守れない、の悲惨な状態のまま、折しも球団の株主総会と取締役会とあっては何らかの打開策を打ち出すしかない。そこで発表されたのが堤辰佳GMの事実上の更迭と鹿取GM特別補佐の昇任だった。
何でもこなす万屋!?
この時ドラフト外として入団したのが鹿取だ。1年間の戦力補強を怠れば後々のマイナス面は計り知れない。だが、この男がその後のプロ人生でドラ1並みの活躍をすることによりチームは救われた。ある時は抑え役、ある時は中継ぎ役、さらにローテーションの谷間があると先発としても起用された。
明大時代には連日のように500球近く投げ込みをやったこともある。かと、思えばブルペンで10球近くも投げれば肩が出来上がる。87年には当時リーグ最多の63試合に登板して王巨人の初優勝に貢献した。西武に移籍後の90年には最優秀救援投手のタイトルも獲得。まさに使い勝手のいい存在だった。
現役引退後は長嶋茂雄、原辰徳の下で投手コーチを歴任、特に長嶋時代には次から次へと継投を繰り返す「勘ピュータ采配」に「これではシーズン終盤まで投手が持ちません。考え直してください」と直言したという逸話が残っている。このあたりの骨っぽさは土佐っぽ、と言われる高知人の気質かもしれない。
ユニフォームを脱いだ後も読売系スポーツ紙の評論家や侍ジャパンのテクニカル・ディレクターなどを歴任。常に読売グループの傘の下にいる。
更迭劇に潜む病巣
さて、高橋巨人のピンチに救援役を任された新GMだが難問は山積している。今回のお家騒動の最中でも、最高権力者である読売新聞社主筆・渡邊恒雄からは「FAで取った選手は誰も働いてない」と補強の失敗を一喝される。球団オーナーの老川祥一は監督、コーチ、選手の前で低迷する視聴率や観客動員、チケットの伸び悩みまで苦言を並べたという。
原辰徳の後任監督として急遽、3年契約を結んだ高橋由伸には強く出られない。しかし3年連続のV逸は許せない。こうしたしわ寄せがGMの責任論として堤の更迭劇につながるのだが果たしてそれだけで問題は解決するのか? そこにこそ、現在の巨人の病巣がある。
6年前に起こった「清武の乱」をご存じだろうか。原巨人がシーズンを3位で終わったオフ。当時のGMだった清武英利らが新たな組閣構想を進める中で、突如として本社サイドからヘッドコーチに江川卓を起用する案が示される。これに清武が「不当な人事介入」と渡辺恒雄(当時は球団会長)に反発、相互に批判の応酬を繰り返す様相を呈したが結局は清武の解任となった。
この、清武や堤の時代には自前の戦力育成のため、三軍を創設したり、一軍で思い切った若手の登用なども試してきたが、不成績とともに責任者の首をはねていては改革も進まない。
鹿取GMが挑む新たな役
読売グループにとって使い勝手のいい、そしてピンチの時に出番の回ってくる鹿取だが、今回ばかりは自らの描くチーム再建構想を実現しなければならない。
他チームを見れば明大の先輩である高田繁がDeNAのGMとして改革に着手している。楽天の球団副会長・星野仙一は実質上、GM職も兼務、プロはもとよりアマ野球界にも豊富な人脈を誇り楽天躍進の一翼を担っている。
巨人の再建策を聞かれた星野は「最低4~5年はかかるだろう」と語っている。内部の圧力を廃して、地道な育成を続けて5年だ。黒子から表舞台に戻ってきた球団初の選手経験のあるGM。今度こそ「トカゲの尻尾」にならぬよう願ってやまない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)