ドジャースはNG、マリナーズはOKの不思議
まさに、電撃的な残留となった。
シアトル・マリナーズからFAになり、ロサンゼルス・ドジャースと3年総額4500万ドル(約54億円)で合意していた岩隈久志投手が、その後のメディカルチェック(身体検査)でドジャース側から契約の白紙を伝えられた。
その直後、マリナーズが岩隈側に1年契約を提示し、無事合意。1日で契約白紙から契約合意へというドタバタ劇となった。
マリナーズが当初提示していた2年契約から1年短くなったものの、一定の条件を満たせば2年目、3年目の契約が延長されるオプション付き。先日マリナーズと契約した青木宣親とともに、チームを15年ぶりのプレーオフへと導く活躍に期待がかかる。
今回の一件で不思議なのは、ドジャースはメディカルチェックの結果で契約を白紙に戻した一方、マリナーズのチームドクターは「岩隈の状態は問題ない。3年契約でもいいくらいだ」と言ったという点だ。
ドジャースが気になった箇所や症状はわからないが、マリナーズとの見解の違いがここまで大きくなると、結局のところ岩隈の状態はどうなのか心配になる。
今回の件で言えば、ドジャースが選手との契約において、「ケガの有無」に敏感になっているということもある。
ドジャースは昨年オフ、ニューヨーク・ヤンキースからFAとなったブランドン・マッカーシーと4年総額4800万ドルで契約を結んだ。大きな期待がかけられたマッカーシーは、開幕から4試合に登板して3勝を挙げたものの、その後ヒジの故障が発覚。トミー・ジョン手術を受けることになってしまったのだ。
手術により、4年契約のうち約2年を棒に振ってしまうことになったマッカーシー。この一件で、ドジャースのフロントはファンから痛烈な批判を浴びた。
岩隈との契約も大型だったため、マッカーシーのようなことが起こらないよう慎重になったのではないだろうか。
メディカルチェックで契約を見直された日本人選手
過去、メディカルチェック後に契約を見直された日本人選手というと、岩隈以外にもいる。
2011年オフ、岡島秀樹はヤンキースとマイナー契約を結んだが、メディカルチェックを経た翌年2月に契約を解除された。左肩に異常が見つかったためだった。
MLBは日本と比べ契約金の額が大きいこともあるが、メディカルチェックの後に契約を見直すケースが珍しいことではない。また、これはFA選手に限った話でもないのだ。
メジャー屈指のナックルボーラーで、2012年にはサイ・ヤング賞にも選ばれたトロント・ブルージェイズのR.A.ディッキーは、1996年のドラフトでテキサス・レンジャーズから1巡目指名を受け、81万ドルの契約金を掲示された。しかし、その後のメディカルチェックで右ヒジにあるはずの靭帯のうちのひとつを生まれつき持っていないことが判明し、契約金を7.5万ドルと大きく下げられている。
野球に限らず「契約社会」と言われるアメリカだが、選手との契約においても非常に神経を使っていることが伺える今回の岩隈残留劇だった。
文=京都純典(みやこ・すみのり)